「ストレスを空(くう)にする」場所── 沖縄・空の森クリニックが描く、100年後のビジョン

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2026.01.23

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「ストレスを空(くう)にする」場所── 沖縄・空の森クリニックが描く、100年後のビジョン

沖縄県南部に位置する「空の森クリニック」。そこは、私たちが「病院」と聞いて想像する光景とは全く異なる場所でした。光と風が通り抜ける木造の建築、リゾートホテルのような静謐な空間、そして随所に置かれた現代アート。

ここが、体外受精や顕微授精など高度な不妊治療を行う最先端の医療機関であることに、まず驚かされます。

なぜ、これほどまでに空間と環境を重視するのか。その根底にある哲学について、院長の德永先生にお話を伺いました。

「不妊治療が、不妊を産む」という矛盾


森:まず率直にお伺いしたいのですが、こちらを訪れたとき、「本当に病院なのだろうか」と驚きました。この空間には、どのような意図があるのでしょうか。


德永先生:そう感じていただけたなら、とても嬉しいです。私たちの根底にあるのは、実はとてもシンプルな問いなんです。「子どもがいないことは、本当に不幸なことなのだろうか?」という問いです。

不妊治療を長く続けていると、治療を頑張れば頑張るほど、ご本人にとって大きなストレスになっていく現実があります。私はそれを、「不妊治療そのものが、不妊を生んでしまっている状態」と表現しているのですが、その矛盾をずっと感じてきました。

森:治療のストレスが、かえって妊娠を遠ざけてしまっている、と。

德永先生:ええ、確かにそうした側面はあります。以前、治療を終えられた患者さんと街でばったりお会いしたことがありました。そのとき、その方がふっと目をそらされたんです。それが、私にはとてもショックで。

もしかしたら、その方にとって、私と一生懸命治療に向き合った時間が、思い出したくない、触れてほしくない「黒歴史」になってしまったのではないか。そう思ったとき、それだけは絶対にあってはならないと強く感じました。

だから当院では、患者さんのことを「患者」とは呼ばず、「ゲスト」とお呼びしています。子どもがなかなかできないという時間は、病気ではなく、その人の人生がもう一段階アップデートされるために与えられた、とても大切な時間かもしれない。

私たちは、その時間をともに過ごす存在として、人生の節目に招かれた「ゲスト」をお迎えする。そんな気持ちで、この空間も、関わり方も、すべてを設計しています。

コンセプト「空の森」一流のプロフェッショナルに委ねて生まれた場所


森:「空の森」という名前にも、今お話しいただいた哲学が込められているのでしょうか。


德永先生:まさにその通りです。「空(くう)」と「森」、この二つの言葉に想いを込めています。まず、治療の中で知らず知らずのうちに溜め込んでしまう、つらい気持ちやストレスを、一度「空っぽ」にしていただきたい。そして、生命を育む「森」のような空間の中で、心から安らいでほしい。その二つを合わせて、「空の森」と名付けました。

森:これだけ壮大なコンセプトを、実際の空間として形にするのは、大変だったのではないでしょうか。

德永先生:ええ、私一人の力では到底不可能でした。幸いなことに、この想いに共感してくれた、素晴らしいプロフェッショナルたちが集まってくれたんです。建築家の手塚貴晴さん・由比さんご夫妻、アートディレクターの佐藤卓さん、画家の黒塚直子さん、本当に多くの方々の力をお借りしました。

私がやったことがあるとすれば、実は一つだけかもしれません。それは、「医者である私が、コントロールしようとしなかった」ことです。

森:医療施設なのに、医師がコントロールしない、というのは意外です。

德永先生:私たちは医療のプロではありますが、建築や空間、アートについては素人です。だからこそ、その道の専門家にきちんと「委ねる」ことを徹底しました。

建築の手塚さんたちとは、最初にバリ島のアマンリゾートへ視察に行きました。「自然が主役で、建物は脇役」というイメージを共有したかったからです。

後から手塚さんに聞いたのですが、「お医者さんに“空っぽ”なんていうアイデアを話したら、怒られると思っていた」そうなんです。でも私が「そうなんですよ、それがやりたいんです」と答えたことに、むしろ彼らの方が驚かれた、と。

人を整える空間──「空の森」が大切にしていること


森:実際に、この空間にはどのような工夫がされているのでしょうか。


德永先生:例えば沖縄という土地で、あえて木造建築を採用し、外廊下を多く取り入れています。それは、沖縄に暮らす人たち自身に、「自分たちが生きているこの気候が、どれほど恵まれているか」を、改めて感じてほしかったからです。

コンクリートで閉ざされた空間ではなく、風や光、湿度をそのまま感じられる場所のほうが、人の心や体に良い影響を与える。私たちはそう信じています。

そしてそれは、ゲストだけでなく、ここで働くスタッフも同じです。スタッフ自身が心地よいと感じられる空間で働けてこそ、ゲストへの本当に良いケアにつながる。そのため、スタッフが休むスペースにも中庭を設けるなど、この点は特にこだわりました。

森:空間全体に、自然とアート作品が溶け込んでいる印象を受けます。

德永先生:はい。画家・黒塚直子さんによる藍色の絵画や、沖縄の作家さんが手がけた「やちむん(焼き物)」の器などを、空間の一部として配置しています。アートが主張しすぎるのではなく、まるで自然の延長線上にあるかのように感じてもらえることを大切にしました。

それらすべてが一体となって、「空の森」という思想を、言葉ではなく体感として伝えてくれている。私はそう思っています。

「空の森プロジェクト」が目指す、100年先のゴール


森:先生が目指している、このプロジェクトの最終的なゴールとは、どのようなものなのでしょうか。


德永先生:私は、チームのみんなにいつもこう伝えています。「100年後、ここがクリニックでなくなっていたとしても、人の手で大切に育てられた、美しい森がこの場所に残っていれば、それでいい」と。

ここは「空の森クリニック」である前に、「空の森プロジェクト」なんです。私たちは医療者であると同時に、その森の“管理者”のような存在だと思っています。

もちろん、目の前の治療成績はとても大切です。けれどそれ以上に、世代を超えて、この沖縄の地に豊かな環境や価値を残していく。その大きな流れの一部として、今、私たちはここにいる。

そう考えると、この仕事は本当に贅沢な仕事だと、心から思うんです。

森:空の森のこれからを大切に育てていく、そんな想いが伝わるお話を聞かせていただき、ありがとうございました。


次の記事では、「空の森」という哲学が、実際の治療の現場でどのように生かされているのかについて、德永先生に伺いました。

本日お話をおうかがいした方

空の森クリニック 

理事長

德永 義光

琉球大学医学部卒業、医学博士。滋賀医科大学やローマ大学での解剖学研究を経て、豊見城中央病院などで臨床経験を積む。2005年に前身となるクリニックを開業後、2014年に沖縄にて「空の森クリニック」を設立。さらに2022年には「空の森クリニックKYUSHU」(2025年より「空の森クリニック くるめ」へ名称変更)を開設。高度な医療技術と心のケアを融合させた治療を、沖縄から広げている。

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